かねいについて/2

「ゼロ」から始めることの難しさ

念願の自分たちの店を持ち、毎日懸命に働いてもなかなか売り上げが伸びない日々が続いていました。
修行先だった妻の実家にいた頃は、新しいお菓子をつくれば自然とお客様も増え、売り上げも上がっていたのに…。二人でやれば自然とお客様も来てくれるだろうと、どこかで思い込んでいました。でも「何もない」ところからお菓子を売るということは、「のれん」がある上でお菓子を売ることとは全く違い、とても難しいことなのだと思い知らされたのでした。

そんなある日、とあるバラエティ番組で「ハッ」とするお笑いタレントの言葉がありました。
「売れない時代は、どうしたらウケるのかどうしたら仕事が取れるかばかりを考えていたけど、自然体で好きなように話すようにしたらだんだんウケるようになり、仕事も楽しくなりオファーも来るようになった」と。

私たちもまた「おいしい物をつくりたい」という気持ちと「ちゃんと商売を成り立たせなければ…」というプレッシャーの間でもがいていました。二人だけのお店になると妻の実家では考えもしなかった思いが頭をよぎります。
「どうしたら売れるのか?」「このお菓子は手間がかかって採算が合わないんじゃないか?」そんな気持ちが浮かび、お菓子と正面から向き合えなくなっていたのかもしれません。

幸せのフルーツタルト

「今からどうやって行こう?どういう方向に行けばいい?」と模索していた頃、家族の誕生日には毎回フルーツタルトをつくるのが我が家の定番になっていました。家族のためにつくるそのタルトは、フルーツをたくさん使って綺麗に盛り付け、「どうしたらびっくり喜んでくれるかな〜?」なんて、自分も楽しみながら作っていたのです。そのフルーツタルトを食卓へ出すと、子供たちは「うわーっ!」と喜び、切り分けて食べるやいなや「おいしーっ!」と、満面の笑み。
仕事で疲れていても、その言葉と笑顔を見ると、ふわ〜っと疲れも取れていくようでした。と同時に自分も嬉しくなっていました。
その時私はハッとしました。「ただおいしいものを食べてもらいたい」「お客様が思わず笑顔になるものをつくりたい」と、改めて思い直したのです。

それはまさに原点回帰のタイミングでした。
気持ちを新たに、それからは「ただおいしいものを」という気持ちだけでつくり始めました。余計な考えや感情といった分厚い雲に覆われていた空が、パッと明るくなったような瞬間でした。そんな思いでつくり始めると、お客様が嬉しそうに食べている姿を思い浮かべながらつくることができ、お菓子づくりも仕事もさらに楽しくなっていきました。
「このフルーツタルトを出して、お客様にも喜んでいただけたら…」と、思い切って商品化することに決めました。

フルーツタルト フルーツタルト

それから、そのフルーツタルトは人気商品となり、たくさんのお客様が溢れるような笑顔で喜んでくれるようになりました。
「菓子職人になって本当によかった!」心からそう思える瞬間でした。その後、桃のタルトや生チョコクリームのブッセと、次々に新商品をつくっていきました。

「どうしたら売れるのか?」という考えよりも「どうしたらおいしいのか?」
もう少しクリーム多く? もう少ししっとり? もう少し焼いてみる?
毎日の会話はその日その日につくる味の追求、来る日も来る日もおいしさの追求でした。

家族みんなで歩んできました

私たちのお菓子づくりの原点には、いつも「家族」がいます。

私の姉は19歳の時に筋ジストロフィーと宣告され、この病と闘い続けています。自分の病気と向き合い、毎日を大切に生きている姉を私たちは尊敬しています。
妻は「姉さんはいつも私の心の支えで、感謝の気持ちを忘れないということを姉さんを通して気づかされ、その気持ちをお菓子づくりや子育てでも一番大切にしている」そう言ってくれています。

私たちが独立を決意したのは「もっと家族との時間を大切にしたい」との思いからでした。幼い頃からひとりで留守番をすることが多かった私は、子供たちにはおじいちゃんやおばあちゃんの居る環境で育てたいと思っていました。そんな私の気持ちを、なんの抵抗もなく受け入れてくれた妻。そして私たち家族のことを思い、応援し、独立を許してくれた義理の母。家族の支えなくして今の私はありません。

私にとって家族が何よりも大切です。ですから、その感謝や思いやりを同じくお客さまにも提供していきたい。
「商売人」ではなく「商人」になりたい。
利益ばかりを求めるのではなく、人に幸せや喜びを与えられるような人間になりたいと思っています。

笑顔と感謝をこれからも

その後、テレビや雑誌の取材がポツポツと多くなっていき、お客様も少しずつ増え始めました。
そして平成24年、1坪のお店をリニューアルし現在の「中津菓子 かねい」ができました。
以前のお店は駐車場がなかったのはもちろん、狭いスペースの中でお菓子や新商品を提供するには少々物足りなさを感じていました。
修行した場所が和菓子屋だったので、和菓子屋らしい内装や和装することが今まで当たり前のことでしたが、リニューアルするにあたりもっと自分たちの世界観を出していきたいと思い、今では店内もお菓子の内容も私たちらしさを追求したお店づくりを心がけています。

私たちが日々の試行錯誤の中から導き出した答えは
「お客様に喜んでもらうことが一番」だということ。
どれだけの年月と手間がかかっても、自分に正直においしいと思うものをつくり提供していくこと。

忙しい日々の中、かねいのお菓子をひとつほお張る。
ほんのひととき日常を忘れて、小さな幸せを感じ笑顔になっていただければこれほどの幸せはありません。
私たちはこれからも、笑顔になれるお菓子をつくり続けます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
これからもどうぞ「中津菓子 かねい」をよろしくお願いします。

店主 平川

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